8.「四谷」の終焉 ―葉書が支えた語り合いの時代―

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  カトリック教会でよく見られる新ロマネスク様式が採られ、小窓には十字架が彫られているこの建物(1951年竣工) は、2006年7月に浜松町へ移転するまで文化放送の局舎であった。文化放送は、聖パウロ修道会が開設したラジオ局だったのだ。
 開局数年後に会が運営から離れ宗教色は脱色されたが、聖堂を思わせるこの局舎から音声中心の番組が55年間送られ続けた歴史は、AMラジオ放送の歩みそのものでもあった。
  AMラジオ番組は、リスナーの投書とパーソナリティの語りに依存する度合いが高い。思いの詰まった葉書を介して濃密な対話空間が形成され、聴取者は耳を傾ける。だが、近年デジタルな手段が取って代わり、対話が格段に薄くなったと関係者は話す。そうした中で、文化放送はIT化と効率性を追求した最先端の情報発信基地から、放送を再開した。
 「ありがとう」の垂れ幕には、語り合い空間「四谷」への惜別の念が込められている。こうして、AMラジオ局が築いたアナログの時代に、自ら幕を降ろしたのである。
 
写真撮影者:日本大学4年 奥山涼子
2006年7月21日(金)16時40分
文化放送前(新宿区若葉1丁目)にて撮影

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