6.足下見つめて55年 ―遠い街「新橋」―
仕事中は顔を上げず、一心に靴を磨く。その姿は職人そのものだが、初めは気恥ずかしさからだったと言う。写真の女性は55年間、ここ新橋で靴を磨き続けている。
若くして佐渡から上京した彼女は、屋敷での奉公後に結婚。工場が立ち並ぶ足立区内に家を構えた。しかし戦争で夫を失い、収入は絶たれてしまった。そこで幼子を連れてもでき、時間に融通が利くという理由でこの仕事を始めた。場所は靴磨きのメッカであった上野ではなく、「知り合いに見られたくない」思いから距離的に遠い新橋を選んだという。
しかし、彼女の言う“距離”には、もう一つ別の意味が込められていた。当時上野が上京者の集まるブルーカラーの街であったのに対し、新橋はGHQ本部がある日比谷や虎ノ門・霞ヶ関の官庁街に隣接する上層ホワイトカラーの街だった。この社会階層間の隔たり(身を置く世界の違い)が、負い目をあまり感じずに仕事に精を出させた。
だから今日も、彼女は新橋で靴を磨くのである。
若くして佐渡から上京した彼女は、屋敷での奉公後に結婚。工場が立ち並ぶ足立区内に家を構えた。しかし戦争で夫を失い、収入は絶たれてしまった。そこで幼子を連れてもでき、時間に融通が利くという理由でこの仕事を始めた。場所は靴磨きのメッカであった上野ではなく、「知り合いに見られたくない」思いから距離的に遠い新橋を選んだという。
しかし、彼女の言う“距離”には、もう一つ別の意味が込められていた。当時上野が上京者の集まるブルーカラーの街であったのに対し、新橋はGHQ本部がある日比谷や虎ノ門・霞ヶ関の官庁街に隣接する上層ホワイトカラーの街だった。この社会階層間の隔たり(身を置く世界の違い)が、負い目をあまり感じずに仕事に精を出させた。
だから今日も、彼女は新橋で靴を磨くのである。
<写真撮影者:社会学科3年 河田宣之>
2005年5月10日(木)17時頃
JR新橋駅付近(港区新橋2丁目)にて撮影
2005年5月10日(木)17時頃
JR新橋駅付近(港区新橋2丁目)にて撮影
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