57.東京新聞 オリンピック

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 墓地の下を四車線の道路が通る光景は、昭和三十九年の東京五輪に結びついていた。 渋谷区千駄ケ谷の地にある仙寿院は、徳川家康の側室お万の方にゆかり深い寺院。もともとは小山のような地形に墓地があった。小山にふさがれた両側の道路は、それぞれ国立競技場、五輪選手村があった代々木公園へと続く。
 都から移転を求められたが檀家(だんか)の思いをくみ「一度、切り通しにして、その上にふたをし、土を入れて、お墓一つ一つを元に戻し」(久保田正尚住職)現在の姿となった。

後藤ゼミ版 「リアルワールド ―現実のような幻想―」

 目を疑ってしまう不思議な光景。宙に浮かんで見えるのは渋谷区千駄ヶ谷にある仙寿院(1644年創建)の墓地である。日本青年館(地上9階)の一室から撮影されたもので、横長に見えるが奥行き約66mのトンネルの上に存在する。高い壁に囲まれているため、墓地からは下に道路が走っていることを、道路からは上に墓地があることを、共に認識できない。
 この形は東京オリンピック(1964年開催)直前の道路開発によって創り出され、故人を無視した悲惨な現実を映しているように見えてしまう。しかし、18組の参拝者に写真を見せながらインタビューすると、「気にならない」「気にしない」「何も感じない」「墓が存在してくれていることが一番大切」などといった声が多数を占めた。
 カメラが切り取ったこの現実は見る者を驚かせ、故人に対する哀れみさえ生じさせる。その一方で、故人への想いを大切にする遺族によって墓が守られているという、もう一つの現実も存在する。目線の違いによって、異なる2つの現実が映し出されるのだ。
写真撮影者:嶋邦夫
掲載日:2009年3月31日

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