31.大人のイス取りゲーム ―サバイバル戦を勝ち抜く知恵と技術―

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 始発駅、人々は扉が開くのを固唾を飲んで待ち、仕切のある角のスペースを自分のものにしようと目を光らせる。ドアが開くやいなや、車内に人がどっとなだれ込み、イス取りゲームが展開する。始発駅でよく見かけるありふれた光景である。これを社会心理学で言う「距離の文化」という考えからみると、電車という不特定多数の人々が利用し共有する公共の場で、あえて他人との壁を作り自分の空間を確保して安心するのは、都市生活での心の孤独感が生み出す“他人と触れ合いたくない”というささやかな自己防衛反応のあらわれ、と捉えることが可能だろう。それとも、もっと切実に、現代の大都市でのサバイバル戦を勝ち抜くために、疲れ切った心身を癒そうとする、ささやかな知恵と術であるのかも知れない。
写真原作者:日本大学3年 橋本加代

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